大判例

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名古屋高等裁判所 昭和31年(う)429号・昭31年(う)427号・昭31年(う)437号・昭31年(う)431号・昭31年(う)428号・昭31年(う)438号・昭31年(う)432号・昭31年(う)434号・昭31年(う)435号・昭31年(う)436号・昭31年(う)433号・昭31年(う)430号 判決

一、本位的訴因として、被告人鄭段周は同人が昭和二十六年五月三日頃古川武と称する未知の者より突然郵送を受け入手した額面金二百三十万円支払場所東海銀行岐阜支店振出人岐阜市徹明町四丁目三番地川島紡績株式会社代表川島勘市と記載した偽造の約束手形を、偽造なることを察知し乍ら白義一と共謀の上、之を行使して千代田織物株式会社より売買名下に洋服生地を騙取しようと企て同月八日頃名古屋市西区江西町三丁目十四番地ナゴヤ産業株式会社に於て前記千代田織物株式会社代表取締役山口照歳と洋服生地の売買契約を締結し、前記偽造の約束手形を恰も真正に成立したものの様に装い同人に交付して行使し、その旨同人を誤信させ、因つて売買名下に同人から同日同所に於てサージ等二十二反(見積価格金八十七万五千円相当)を、同市東区葵町三十番地白義一方に於てサージ等十五反(見積価格八十五万五千円相当)を何れも交付を受けて之を騙取したものである。

二、予備的訴因として、被告人両名は昭和二十六年五月八日頃名古屋市西区江西町三丁目十四番地ナゴヤ産業株式会社代表取締役山口照歳と額面金二百三十万円支払場所東海銀行岐阜支店振出人岐阜市徹明町四丁目三番地川島紡績株式会社代表川島勘市と記載した約束手形一通を以て洋服生地の売買契約を締結し、同手形を山口照歳に交付してサージ等三十七反の交付を受けた所、前記約束手形は偽造であることが明らかとなるや、被告人等両名は山口照歳を欺罔して右洋服生地の返還を免れん事を共謀し、同月九日頃右洋服生地を他に運搬隠匿し、同市東区葵町三十番地白義一方に於て右手形が偽造であつた事を理由として洋服生地の返還を求めに来た前記山口照歳及び千代田織物株式会社嘱託角田鋳二に対し宮坂重雄をして「今朝早く華地山から市川と云う者に渡して欲しいとの電話があり、市川が来たので渡した。」と虚構の事実を申向けさせ、又同市西区江西町三丁目十四番地ナゴヤ産業株式会社に於て前記千代田織物株式会社社員山口貞弘が前同趣旨の理由により洋服生地の返還を求めたのに対し、被告人鄭は同人に対しかねて印刷用意しておいた虚無人たる一宮市西新町二十四番地共立商事市川義彦なる名剌を示し「品物は今朝早くこの市川がオート三輪で取りに来たので渡してしまつた。」と虚構の事実を申向けてその旨同人等を誤信させて前記洋服生地の返還請求を一時断念せしめ、因つて千代田織物株式会社に対するサージ三十七反(見積価格金百七十三万円相当)を返還することを免れ、財産上不法の利益を得たものである。

というのであるが、之に対し原判決は本位的訴因については被告人鄭段周において本件約束手形が偽造されたものであることを知つていたことを認めるに足る証拠はないと判示し、予備的訴因については本位的訴因と予備的訴因とを対照して考えると、その手段方法が全く相異していて類似する点がないばかりか、その他犯罪の態様においても両者間に著しい差異があり、公訴事実の同一性があると考えられないから、右予備的訴因は不適法であつて許すべきでないと判示して同被告人を無罪とした。

然しながら原審並びに当審が取調べた証拠によれば被告人鄭段周は白義一の依頼により手形の入手方をプローカー数名に依頼していたところ、昭和二十六年五月三日頃古川武という未知の者より突然振出人川島紡績株式会社代表川島勘市支払場所東海銀行岐阜支店額面二百三十万円及び二百十万円の約束手形二通を郵送して来たので、被告人鄭は白義一と協議の上右の内二百三十万円の手形を以て洋服生地を買付けることとし、同月八日頃宮坂重雄の仲介により千代田織物株式会社取締役山口照歳との間に売買契約を締結し、右約束手形が真正に成立したものとし之に裏書し之を同人に交付し、ナゴヤ産業株式会社においてサージ等二十二反、白義一方において同十五反の引渡を受けたこと、山口照歳は右引渡後右手形の作成につき偽造なるやの疑を抱いたので、被告人等に対し山口照歳自ら又は右取引に関与した同人の弟山口貞弘、右会社嘱託角田鋳二をして前示物品をその侭保管しておくよう要請したに拘らず被告人等は右引渡を受けるやその大部分を岩田政直方に運搬して隠匿したこと、翌九日頃右山口照歳等より「あの手形は偽物らしいから荷物を返してくれ」と要求されるや、被告人鄭は清水富士雄の示唆により予て印刷用意しておいた虚無人である一宮市西町二十四番地共立商事市川義彦なる名剌を示し「荷物は今朝早く市川という人がオート三輪で取りに来たので渡した」旨虚構の事実を申向けて物品の返還を拒んだこと被告人鄭は本件取引に際し「この手形は川島紡の御用商人から出たものである。」とか「俺が裏書するから間違いない。」とか言明したこと、その他記録に顕われた諸般の事情からすれば、被告人が本件手形が偽造であることを認識しなかつたと断定するのは些さか早計の感がないでもなく、原審はこの点につき更に審理を尽すべきであるに拘らず、之をしなかつた原判決は採証の法則を誤つたか、審理不尽の違法がある。

同第二点について。

さて本位的訴因と予備的訴因との関係につき考察するに、前者は原判示の如く山口照歳を欺罔して判示物品を取得したというのであり後者は一旦取得した右物品の取還を妨ぐ為判示の如く山口を欺罔して返還を免れたというのであつて、換言すれば前者は物品を取得する手段として欺罔行為を為し、後者は一旦取得した物品の返還を免れる手段として欺罔行為を為したものであること、被告人は昭和二十六年五月八日頃右物品を取得し、翌九日頃之が返還を免れたこと即ち両者の行為が時間的に近接していること、詐欺の被害者は何れも同一人であること等基本的事実関係は同一のものというべきであるから、詐欺の手段方法等態様を異にするところがあつたとしても、右本位的訴因と予備的訴因との間には著しい差異がなく、公訴事実の同一性があると看るを相当と解する。従つて原判決が右予備的訴因を不適法としたのは法律の解釈を誤つた違法があり、論旨は理由がある。

(裁判長判事 吉村国作 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)

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